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エルミーヌという女

こんにちは、團テス子です。
さて今日はダングラール男爵夫人エルミーヌについての考察です。


旧名エルミニー・ド・セルヴィヴ・ダングラール。
エドモン・ダンテスを無実の罪に陥れた3悪人の一人、銀行家ダングラールの
妻である彼女。
物語終盤まで関わってくる主要登場人物の一人なんですが、個人的にはこの物語の中で
きっての美人は彼女ではないかと勝手に思っております次第です。
一番の美人は誰が何と言おうとエデ、という意見も多いでしょうし、テス子も
別にそれを否定はしません。確かにエデは絶世の美人でしょう。
ただ彼女は間違いなく相当な美人でありながら、ひたすら賢く高潔なイメージが強く
女ならではの分かりやすい浅はかさ、愚かさ、そして成熟した艶や色気が(まだ)感じ
られないのが玉に瑕。早い話、若すぎるのです。
モンテ・クリスト伯爵にとっては大切な「心の癒しキャラ」的存在なんですが
わたくしとしては完璧すぎて、ちと物足りなく感じてしまいます。


さあその点からいうとこのエルミーヌさん。
面白すぎます。
揃ってなくても良いものを、幸か不幸か先述の女の愚かしさ等が全部揃ってます。

まず彼女、相当の美女なのは間違いありません。
だってあのユージェニー嬢を産んだ母ですよ。
父親の見てくれがああなのに(これは失敬!)、ユージェニーがラッキーにも美しく
生まれついたのは確実に彼女の遺伝子に因るところが大きいはず。

しかしそんな彼女の容姿についての詳しい描写は、その娘ユージェニーの詳細さに比べると
多くはありません。というか、ほとんど無いに等しい。
ですがところどころ出てくる描写を拾い、わたくしが大得意の深読みをして妄想の翼を広げて見ますと
そこからは、見た目は貴族的に優雅であり、なよなよ、しなしなとした風情の、
あまり頭は良くなさそうだけど勝ち気で、そしてある点においては奔放さも持っている
金髪年増美人なんだろうな、というイメージが広がります。
(あくまでもこれはテス子の勝手な妄想ですのでご注意ください。)


例えば三巻、モンテ・クリスト伯爵を相手にベルツッチオがオートィユで目撃した過去の
出来事を話す中、若い頃のエルミーヌをほんの少しだけですが、こんな風に表現しています。

  「わたくしの近くまでやって来ましたとき、暗いながらも、その顔かたちが
 わかりましたが、金髪で、背のすらりと高い、十八九のきれいな女で。」

成程、エルミーヌはすらっとした長身美人のようです。

同じく三巻では、自室で、客人である伯爵の訪れを待つエルミーヌをこのように書いています。

  三十六になっていながら、なお美貌の衰えをみせていないダングラール夫人は、精緻な嵌木細
 工のピアノへ向かっていた。

三十六歳なんですね。意外とお若い。アンドレア(ベネデット)を産んだ歳などを逆算で考えていまして
大体いまは四十歳くらいかと踏んでおりましたのに。夫人、これは大変失礼をいたしました。

彼女のその性格については、四巻で、伯爵の邸を訪れたドブレーとアルベールの会話の中に出てきます。

  「相場をするのは、ダングラール氏ではないのでして!」と、勢い込んでドブレーが叫んだ。
  「ダングラール夫人のほうなのです。いや、こわいもの知らずの人でして。」
  「だってドブレー君、ふんべつもあり、それに情報の総元締といったところにいて、情報のい
 かに信ずべからざるかを知っているはずの君じゃあないか。夫人に言って、やめさせるようにすべ
 きじゃないか。」と、アルベールは微笑しながら言った。
  「ところが、御亭主にさえできないことを、なんでこの僕がやれるだろう?」と、ドブレーが言った。
  「君は、ダングラール夫人の性格を知っておいでだ。誰の言うことだって聞く人じゃないんだ。そして、
 しようと思ったことだけしか、絶対しようとしない人だ。」

なるほど。お金持ちのマダムにありがちな、かなり勝ち気な性格のようですね。

七巻では、彼女がヴィルフォールの邸を訪ね、アンドレアの処置を何とか軽くして欲しいと
常識外れな嘆願をした際に、

  ダングラール夫人は両手をあわせた。
  「ヴィルフォールさん!」と、彼女は、いかにもやさしい、いかにもなまめかしい調子で言った。

なまめかしい、ときたもんだ。
この時の彼女の様子が目に浮かぶようです。それに対し、ヴィルフォールは反論します。

  「あなたはシレーヌといったように、そのお美しい、心をさそうような目つきに物をいわせて、
 このわたしの顔を赤らめさせ、なにか言わせようとしておいでになる。」


やはり目線だけでお色気ビームが出せるのでしょうか。
(貴方の身近にもいませんか? こういうタイプの女性。)

彼女としては「なさぬ仲」だった過去を匂わせてでも、何とかヴィルフォールに
アンドレアの事件を揉み消してほしかったみたいですが、そうは問屋が卸しません。
結局すぐにアンドレアは逮捕され、失意のまま彼女は邸を辞去します。
このシーンで非常に面白いのは、その時ヴィルフォールもエルミーヌも、そのアンドレアが
まさか自分たちの息子であるとは露も知らずにいる点ですね。


さて、こうして考察しているとエルミーヌとユージェニーは高慢ちきであるところは共通
していますが、それ以外の点では正反対のタイプ。
この母娘の対比は興味深い。
どうやら母親らしいことはほとんどせず、放任主義のようにしてユージェニーを
育てたらしいことも、六巻でのユージェニーの台詞で察せられます。

   「お母さまは、もうちゃんと安全地帯に身をおいてしまっておいでなんだと思いますわ。
 こうして、お母さまが、いつも財産のことを考えておいでになれたというのも、それは、
 わたしを、野放しにしておいてくだすったからのことなんですの。お母さまは、このわたしが、
 自由を望んでいるのをいいことにして、何から何まで、勝手にさせておおきでしたもの。」

ユージェニーは母親とは違い、まだ世間知らずではあるでしょうが馬鹿ではありません。
その炯眼でもって、母親のある種の奔放さを見抜いていたため、その反動で余計に
冷めた性格、男嫌いになったんでしょうね。


美しくはあったけれど、浅はかで、賢くはなかったエルミーヌ。
彼女の人生はまさに男に翻弄されまくりです。
最終的には娘にも夫にも愛人にも捨てられ、過去の秘密も暴露され、もう恐らく
パリでは暮らしていけないんじゃなかろうか、と思わせられるような気の毒な結末なんですが
結局はそれも全部、彼女の女としての愚かさ故。身から出たサビ、つまり自業自得なのです。


ここで、軽く彼女の生き様をおさらいしてみましょう。


ナルゴンヌ侯爵と結婚

夫が出征中の留守にヴィルフォールと不倫

9ヶ月留守して帰ってきたら妻は何故か妊娠6ヶ月。
ショックを受けた夫のナルゴンヌ侯爵は自殺。

密かに出産したが子供(ベネデット)は死産(と彼女は思い込んでいた)

ヴィルフォールが怪我の療養でパリを離れ二人の仲は終わり
ダングラールと再婚、ユージェニーを出産

内務大臣秘書官リュシアン・ドブレーと不倫

夫のダングラールが破産、逃亡。捨てられる

愛人ドブレーにも捨てられる

裁判中、衆人環視の中ベネデットにヴィルフォールとの過去の秘密が暴露される



・・・悲惨。

三巻で初めてモンテ・クリスト伯爵と対面したダングラールが語ったところによると、
夫人は「セルヴィエル家の生まれ」で「陸軍大佐ド・ナルゴンヌ侯爵の未亡人」と言ってます。
セルヴィエル家がどういう家なのか、その点がここでは詳しく追記されてはおりませんが、
2巻でカドルッスが、司祭に化けた伯爵相手にダングラールが男爵にまで成り上がった経緯を
話して聞かせる際、エルミーヌを「王様のお気に入りの侍従の娘」と言ってますね。
やはりいいとこのお嬢さんなんでしょう。
成金の新興貴族で自慢しぃのダングラールが伯爵に聞かれもしないのにわざわざそこを強調して
付け加えるって事は、フランスでも名の知れた名家なんでしょうね。

さて、ド・ナルゴンヌ侯爵の未亡人となってから後は、社交界で数々の男性との浮き名を流したに
違いない彼女。
そのあたりは七巻で、破産し妻子を捨てて逃亡したダングラールの置き手紙の中でも、


  思えばお前をもらった当時、たとい金持ではあったにしても、かなり評判のわるかった
 お前だった。


とあけすけに書かれている通り、その当時の彼女の世間での評判は散々だったんでしょう。
逆算していくと物語の中では娘ユージェニーが16歳ですので、エルミーヌが20歳のときに
出産したことになりますね。
ということで更に逆算していきますと、大体18歳の頃ヴィルフォールと不倫しベネデットを
産んだと考えると、ダングラールと再婚するまでに2年ほどのインターバルがあります。
そのたった2年の間に彼女の社交界での評判は悪くなったのでしょうか。
それとも未亡人になる以前から、すでに悪評高かったのでしょうか。恐るべし。
ちょっと脱線しますが、上記の逆算で考えるとアンドレア(ベネデット)は18歳くらいで産んだという
ことになるんですよね。
…あれ?ではベネデットの実年齢ってまだ18歳? 「アンドレア」としてはかなりの逆サバ読み状態。

ま、それはさておき。
ダングラールがそんな彼女と再婚したのは、まず金持ちであったこと、出自の良さ、侯爵未亡人という
世間的ステイタス、そしてエルミーヌが美人だった。
この最後の一点は、決してダングラールにとって重要ではないにしても、野心家で上昇志向が高く
自慢しぃな彼にとってはそれなりの高ポイントだったと推察されます。
更にテス子お得意の深読みをしますと、自分と同じ平民上がりのフェルナン(モルセール伯)は
美人の嫁(メルセデス)を貰ってるのですから、妙な男のプライド、対抗意識が全くなかったとも
言えません。
未亡人とはいえエルミーヌは当時まだ二十歳になるかならずかの若さ。
そこはほれ、ダングラールも男ですから。
多少評判が悪くても、目、瞑っちゃったんじゃないかなー、とね。
男はやはり悪女が好きなのですよ。うん。

ダングラールの一度目の奥さんは、確か奉公先の銀行家の娘さん。
当然金持ちではあったでしょうがおそらく平民だったのでは…等といろいろ想像していくと
ダングラールの再婚相手の条件としてはやはり、いいとこの出、というのは大切だったでしょう。
げんに彼の口からは、メルセデスの前身(貧しいカタロニアの娘)を皮肉るような
嫌な発言も出ていますしね。
こういうことって、自分の奥さんはいいとこの出なんだぞ、という奢った気持ちがないと
言えない筈です。
(はい、あくまで勝手な想像ですので!)

エルミーヌの側は、何目的での再婚だったんでしょうか?
若い身空で未亡人とはいえ金持ちだったのに、一体何を好き好んでダングラールみたいなパッとしない
ブ男と再婚したのか。
火遊びしすぎてよっぽど再婚のアテがなかったのか?
やはりお金目当てとしか思えません。
相場師としてのカン(だけ)は良かった彼女。
すでにその当時からお金の臭いを嗅ぎつける力だけは発揮し始めていたのかもしれません。

最終的には多くの物を失った彼女ですが、ドブレーとの共同出資による投機で儲けたお金だけは
手元に残りました。
150万フラン。日本円にして15億。ドブレーの言うとおり確かに「たいへんな金持」です。
ここで小説を読んでいてふと疑問に思った点があります。
彼女はドブレーと決別した後、どうしてさっさとドブレーの助言通り、パリから姿を消さなかったのか。
何でわざわざ、アンドレアの裁判なんかにひょこひょこ出向いてきたのか。
確かに彼女の未来の娘婿になったかもしれない男ですし、判決の行方が気になったのかもしれませんが
それにしたって、破産した夫が逃げてわずか三日しか経っていないのに、ベールで顔を隠しているとはいえ、
後ろ指をさされるリスクを犯してまで出かけるでしょうか。

しかも裁判中に何度も気絶なんかしちゃって、浴びなくてもいいみんなの注目を浴びたりして。
あれで恐らく、どうやら悪人ベネデットの母親は彼女かもしれないと世間にはバレてしまったでしょう。
ここからまたまた深読みしますが、彼女がわざわざ傍聴しに裁判所に出向いたのは、
誰かの意図が働いたためではないでしょうか?
例えば失意の彼女の元に、裁判の朝、差出人不明の一通の手紙が届けられる。
18年前オートィユでの真実が知りたければ裁判を見るべきだ、という思わせぶりな文面で。
それを誰が送ったかは…やはり伯爵ではないかと勝手に想像してるんですがどう思います?


それにしても、これだけの財産が手元にあれば、もしこれが娘のユージェニーならば
落ち込むどころか「才能もあり、美しくて、再びお金持ちであるわたし!」とばかり、喜々として
パリを去って、新しい土地で生きていくでしょう。
せめて娘の半分でも、エルミーヌに根性とバイタリティがあればよかったですね。


これまで自分のことだけ考えて生きてきた彼女は、果たしてあの後どういう人生を
送ったんでしょうか。
夫に捨てられた途端、愛人ドブレーがきっと自分の窮地を救ってくれるだろうと安易に
考えたエルミーヌ。
確かに単純で愚かだけど、それ故にか、テス子にはどこか憎めない女性キャラなのでした。
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テーマ : お気に入り作品
ジャンル : 小説・文学

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團 テス子

Author:團 テス子
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