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ヴィルフォールとその妻

「モンテ・クリスト伯」第7巻 186ページより


毒薬を用い、義母、義父、そして前妻の娘までを殺した自分の妻を糾弾するヴィルフォール。

 「まあ!」夫人は、そう言いながら、心の底まで見とおすように夫を見つめた。そして、微笑
 を浮かべてみせようとしたが、それはたちまち、夫の冷然とした態度の前に凍りついてしまった。
  「どうかなさいましたの?」
  「お前がいつもつかっている毒薬はどこに入れてある?」と、ヴィルフォールは、妻と戸口と
 のあいだに立ったまま、単刀直入にきっぱりと言った。
  ヴィルフォール夫人は、まるで一羽のひばりが、自分を狙う鷲の輪が、その頭の上でだんだん
 狭くなってゆくのを見ているとでもいうような気持ちだった。

犯した罪を見抜かれて動揺する夫人に対し、検事総長たる夫の激しい糾弾は更に続く。

  「お前にはたずねる権利がない。返事をしたらそれでいいのだ。」
  「どなたにですの? わたしの夫にたいしてですの、それとも裁判官にたいしてですの?」と
 口ごもるように夫人がいった。
  「裁判官にたいしてなのだ!」
  夫人の顔は蒼白になり、目には苦悩の色が浮かび、全身はふるえだし、見た目にもおそろしい
 ほどだった。
  「まあ、あなた!」と、彼女はつぶやくように言った。「まあ、あなた……」と、夫人はわずか
 にそれだけを言った。


自分が裁判所から帰宅するまでに、家名を汚すよりも己が命で罪を贖え、と
妻に対して苛烈な命令を下すヴィルフォール。

  「いいえ、いいえ。」と、夫人はわめきたてた。「そうさせるお考えではないんですわ!」
  「おれはお前を、断頭台で殺させたくないんだ。」とヴィルフォールが答えた。
  「おお、あなた、おねがいです!」
  「おれは、正義のおこなわれることを望んでいる。この世にあってのおれの使命は、悪を罰す
 ることにある。」と彼は、火のように燃える眼ざしで言った。「これがもしほかの女だったら、た
 とい相手が王妃であろうと、わたしは死刑執行人を差し向けたにちがいないのだ。だが、お前に
 だけはなさけをかけよう。おれはお前にこう言うのだ。『お前は、いちばん飲みいい、きき目の早
 い、いちばんたしかな毒薬の幾滴かをとっておいたにちがいない。』と。」


それは、ヴィルフォール夫人にとって「死刑宣告」にも等しかった。

  「おぼえておくのだ、」と、ヴィルフォールが言った。「おれの帰ってくるまでに、もしも裁き  
 をつけないでいたら、おれはこの口でお前を告発する。そして、この手でお前を逮捕する。」
  彼女は、息づかいもくるしく、力なく、打ちのめされたようになって聞いていた。生きている
 のはその目だけ。そこには、恐ろしい焔が燃えていた。


妻に「死ね」と宣告したヴィルフォール。
だが彼には、この後更なる悲劇が幾重にも待ち受けていた。
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